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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)2690号 判決

滝野川信用金庫

理由

高一工業が控訴人金庫に対し原判決添付別紙目録第一の(一)ないし(四)の定期預金債権および同目録第二の(一)、(二)の定期積金債権合計六八万一八〇〇円を有していたことは当事者間に争いがない。そして《証拠》によれば高一工業は昭和三七年五月二五日被控訴人に対し右各債権を譲渡したことが認められ、右に反する甲第四号証の一の記載および前掲新井証人の供述部分は前掲乙第一八号証の一、二と対比して措信できない。

被控訴人は右債権譲渡につき控訴人がこれを承諾したと主張するのでまずこの点につき考えるに、右主張にそう原審における証人新井敬之助の証言および被控訴会社代表者本人尋問の結果は後記のとおり措信できず他にこれを認めるに足る証拠はない。かえつて《証拠》によれば、昭和三七年五月二四日被控訴会社代表取締役加賀沢喜八、高一工業代表取締役高橋一郎および新井敬之助の三名が控訴人金庫中板橋支店長藤田五平を訪ねて高一工業から被控訴人への預金債権譲渡の承諾を求めたところ(以上の事実は当事者間に争いがない)、当時高一工業と控訴人金庫間には昭和三六年一〇月頃締結された与信契約および根質権設定契約にもとづき高一工業は控訴人金庫に対し手形割引にもとづく一四七万五二二七円の債務があり、控訴人金庫は現に譲渡承諾を求められている高一工業の控訴人金庫に対する預金債権が右根質権の目的物となつており、また右預金債権は高一工業と控訴人金庫との間で譲渡禁止の特約がなされていたので、藤田は右の旨を告げ、かつ、高一工業の当時の営業状況等を考えて、譲渡承諾を拒み、右手形割引による高一工業の控訴人金庫に対する債務が全部決済されたらあらためて相談に応ずる旨告げたことが認められ、右認定に反する前掲新井証人および被控訴会社代表者本人の供述部分は右認定に供した証拠と対比して措信できない。

ところで被控訴人主張の本件債権については前記認定のとおり高一工業と控訴人との間において譲渡禁止の特約がなされており、また昭和三七年五月二四日藤田は被控訴会社代表取締役ら来訪者に対しその旨告げていたのであつて、このことと原審証人亘義雄の証言により認められる譲渡禁止の記載のある本件定期積金の証書が当時高一工業の手中にあつた事実とによれば被控訴人は高一工業から債権譲受の際右譲渡禁止の特約の存在を知つていたものと認められる。被控訴人は前記債権譲渡承諾が認められないとしても右債権譲渡につき通知がなされたと主張し右通知の内容証明郵便が被控訴人主張の頃藤田に到達したことは当事者間に争いがないが、右のとおり譲渡禁止の特約があり、かつ被控訴人がこれを知つていた以上結局高一工業から被控訴人への債権譲渡はその効力を生じないものというべきである。

以上によれば被控訴人は本件預金債権の債権者とはいえないから、これを前提とする本件請求はその余の点について判断を用いるまでもなくすべて失当として棄却すべきものである。

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